コンクリートは丈夫な材料ですが、ずっと同じ状態を保てるわけではありません。
雨や海から飛んでくる塩分、空気中の二酸化炭素、寒さなどの影響を長い間受けると、コンクリートそのものや内部の鉄筋が少しずつ傷んでいくことがあります。
これがコンクリートの「劣化」です。
代表的なものには、次の5つがあります。
- 中性化
- 塩害
- 凍害
- ASR(アルカリシリカ反応)
- 化学的侵食
名前だけを見ると難しそうですが、最初から細かな仕組みまで覚える必要はありません。
「何が作用する?」
→「内部で何が起こる?」
→「どんな変状が現れる?」
この順番で考えると、それぞれの違いが見えてきます。
この記事では、コンクリートの代表的な劣化について、土木を初めて学ぶ人にもイメージできるように解説します。
コンクリートはなぜ劣化する?
コンクリートが劣化する原因は一つではありません。
空気中の二酸化炭素が影響するものもあれば、海水などに含まれる塩化物イオン、寒さ、使用されている骨材、周囲の化学物質などが関係するものもあります。
さらに、鉄筋コンクリートの劣化を理解するときは、
「内部の鉄筋が腐食するもの」
と、
「コンクリートそのものが傷むもの」
に分けて考えると分かりやすくなります。
中性化や塩害では、内部の鉄筋が腐食し、その影響でコンクリートにひび割れや剥離が発生することがあります。
一方、凍害、ASR、化学的侵食では、コンクリートそのものに損傷や変質が生じます。
代表的な5つを整理すると、次のようになります。
| 劣化 | 主に作用するもの | 主に起こること | 現れやすい変状 |
|---|---|---|---|
| 中性化 | 二酸化炭素 | 鉄筋を守る環境が失われる | 鉄筋腐食、ひび割れ、剥離 |
| 塩害 | 塩化物イオン | 鉄筋を守る不動態皮膜が破壊される | 錆汁、ひび割れ、剥離 |
| 凍害 | 水分+凍結・融解 | コンクリート内部に圧力が生じ、損傷が進む | 表面の剥がれ、ひび割れ |
| ASR | 反応性骨材+アルカリ+水分 | ASRゲルが吸水・膨張する | ひび割れ、膨張・変形 |
| 化学的侵食 | 酸・硫酸塩など | コンクリートが化学作用によって変質する | 軟化、侵食、断面欠損 |

まずは、この5つの違いを大まかにつかめれば十分です。
ここから、それぞれの仕組みをもう少し詳しく見ていきます。
中性化とは?二酸化炭素によって鉄筋を守る環境が失われる
コンクリートは、もともと強いアルカリ性を示します。
この環境では、コンクリート内部の鉄筋表面に**不動態皮膜(ふどうたいひまく)**と呼ばれる薄い保護膜が形成され、鉄筋が腐食しにくい状態になっています。
難しい名前を覚える必要はありません。
まずは、
「コンクリートの高いアルカリ性によって鉄筋が守られている」
と考えてください。
ところが、空気中の二酸化炭素(CO₂)がコンクリート内部へ入り込むと、コンクリート中の成分と反応し、表面側から徐々にアルカリ性が低下していきます。
これが中性化です。
中性化で問題になるのは、コンクリートがすぐにボロボロになることではありません。
鉄筋を腐食から守っていた環境が失われていくことです。
中性化が鉄筋付近まで進み、水分や酸素などの条件がそろうと、鉄筋が腐食しやすくなります。
鉄筋が腐食して錆が生じると、その膨張によって周囲のコンクリートが押されます。
二酸化炭素が侵入
↓
コンクリートのアルカリ性が低下
↓
鉄筋を守る環境が失われる
↓
鉄筋が腐食
↓
ひび割れ・浮き・剥離
という流れです。
中性化は、
「二酸化炭素によって、鉄筋を守っているコンクリートのアルカリ性が低下していく現象」
と覚えておくと分かりやすいでしょう。
塩害とは?塩化物イオンによって鉄筋が腐食する
塩害は、海の近くにある橋やコンクリート構造物をイメージすると分かりやすいでしょう。
海水や海から飛んでくる塩分には、塩化物イオンが含まれています。
この塩化物イオンがコンクリート内部へ入り込み、鉄筋付近で一定量を超えると、鉄筋を守っている不動態皮膜が破壊され、鉄筋が腐食しやすくなります。
これが塩害です。
塩化物イオンが侵入
↓
鉄筋を守る不動態皮膜が壊れる
↓
鉄筋が腐食
↓
錆が膨張
↓
ひび割れ・浮き・剥離
という流れです。
「塩害」という名前から、塩によってコンクリートそのものが溶けていくように感じるかもしれません。
鉄筋コンクリート構造物の塩害で大きな問題になるのは、塩化物イオンによって鉄筋腐食が進むことです。
中性化と塩害は何が違う?
中性化も塩害も、最終的には鉄筋腐食につながることがあります。
ただし、そこに至る原因が違います。
中性化では、二酸化炭素によってコンクリートのアルカリ性が低下し、鉄筋を守る環境が失われます。
塩害では、塩化物イオンによって鉄筋表面の不動態皮膜が破壊されます。
入口は違いますが、どちらも鉄筋腐食がコンクリートのひび割れや剥離につながる代表的な劣化です。
なお、塩化物イオンは海からだけ入ってくるとは限りません。
凍結防止剤など外部から供給される場合のほか、材料からコンクリート中に持ち込まれる場合もあります。
生コンクリートの受入れでも塩化物量を確認します。スランプや空気量など、現場で何を確認するのかはこちらの記事で詳しく解説しています。
👉 生コンの受入検査とは?スランプ・空気量・塩化物量など何を確認するのか解説
凍害とは?内部の水分が凍結・融解を繰り返してコンクリートが傷む
寒い地域では、コンクリート内部にある水分が凍結することがあります。
ここで、
「水が凍るだけで、なぜコンクリートが壊れるの?」
と思うかもしれません。
水は凍結すると体積が増えます。
コンクリート内部の細かな空隙にある水分が凍結すると、内部に圧力が生じます。
そして気温が上がると氷が溶け、その後、再び気温が下がればまた凍結します。
内部に水分がある
↓
水分が凍結・膨張する
↓
内部に圧力が生じる
↓
融解する
↓
再び凍結する
という作用を何度も受けることになります。
この凍結と融解の繰り返しによって微細なひび割れが増え、徐々にコンクリートが傷んでいくのが凍害です。
凍害が進むと、コンクリート表面が薄く剥がれていくことがあります。
このような表面の剥がれはスケーリングと呼ばれます。
初心者の段階では、
「コンクリート内部の水分が凍結・融解を繰り返し、その影響でコンクリートそのものが傷んでいく」
と理解しておけば十分です。
ASRとは?ASRゲルが吸水・膨張してひび割れを起こす
ASRは、
Alkali Silica Reaction(アルカリシリカ反応)
の略です。
名前だけを見ると難しそうですが、順番に考えてみましょう。
コンクリートには、砂や砂利などの骨材が使われています。
骨材の中には、特定の条件でコンクリート中のアルカリ成分と反応する性質を持つものがあります。
このような骨材に含まれる反応性のあるシリカがアルカリ成分と反応すると、ゲル状の反応生成物ができます。
これをここでは**ASRゲル(アルカリシリカゲル)**と呼びます。
このASRゲルが水分を吸収すると膨張し、周囲のコンクリートに圧力がかかります。
反応性のある骨材
+ アルカリ
+ 水分
↓
ASRゲルができる
↓
ASRゲルが水分を吸って膨張
↓
周囲のコンクリートに圧力がかかる
↓
ひび割れ
という流れです。
「そもそも骨材って何?」という人は、コンクリートを構成するセメント・水・骨材の役割をこちらの記事で確認できます。
👉 コンクリートとは?何でできている?セメント・モルタルとの違いを初心者向けに解説
ASRでは、網目状・亀甲状に見えるひび割れが発生する場合があります。
ただし、
「亀甲状のひび割れがある=ASR」
と見た目だけで判断することはできません。
似たひび割れが別の原因で発生する場合もあるため、使用材料や周囲の環境、ひび割れの状態などを調査して判断します。
今のコンクリートでもASRは起こる?
現在の公共工事では、ASRが有害な状態で発生するのを抑えるための対策がとられています。
骨材のアルカリシリカ反応性を確認する方法のほか、コンクリート中のアルカリ総量を抑える方法や、ASR抑制効果のある混合セメントなどを使用する方法などで対策しています。
化学的侵食とは?酸などによってコンクリートそのものが傷む
化学的侵食は、コンクリートが酸や硫酸塩などの化学物質の作用を受け、コンクリートそのものが変質・損傷する現象です。
ここで、
「酸ということは、酸性雨のこと?」
と思うかもしれません。
雨水などの影響を受ける場合もありますが、化学的侵食で特に問題になるのは、それだけではありません。
例えば、
- 下水道施設
- 温泉地
- 酸性の地下水
- 酸性の水が作用する場所
- 化学工場などの特殊な環境
では、コンクリートが酸などの化学物質にさらされることがあります。
例えば下水道施設では、条件によって硫化水素から硫酸が生成され、その硫酸によってコンクリートが侵食されることがあります。
酸・硫酸塩などが作用
↓
コンクリート中の成分と反応
↓
コンクリートが変質・損傷
↓
表面が軟化・侵食される
↓
断面が失われていく
という流れです。
中性化や塩害では鉄筋腐食が大きな問題になりますが、化学的侵食では、コンクリートそのものが化学作用によって傷むところに注目すると違いが分かりやすくなります。
劣化を見つけたら何を確認する?
ここまで5種類の劣化を見てきました。
実際の構造物では、まずひび割れや錆汁、剥離などの見た目や発生状況から、どのような劣化が疑われるかを考えます。
例えば、
- 鉄筋に沿ったひび割れや錆汁がある
- コンクリート表面が剥がれている
- 網目状・亀甲状のひび割れがある
- 表面が軟化したり侵食されたりしている
といった変状は、劣化原因を推定するための手がかりになります。
ただし、見た目だけで劣化原因を確定できるわけではありません。
例えば、錆汁や鉄筋に沿ったひび割れが見られれば鉄筋腐食が疑われますが、その原因が中性化なのか塩害なのかは、外観だけでは判断できないことがあります。
亀甲状のひび割れもASRを疑う手がかりにはなりますが、それだけでASRと確定することはできません。
そこで現場では、外観だけでなく、
- 変状が発生している位置や範囲
- ひび割れの方向や幅
- 錆汁、浮き、剥離の有無
- 水がかかりやすい場所か
- 海岸付近や凍結融解を受ける地域か
- 構造物の供用年数
- 過去の補修履歴
- 使用材料や施工時の記録
なども確認して、考えられる劣化要因を絞り込みます。
そのうえで、疑われる劣化に応じた調査・試験を行います。
例えば、中性化が疑われる場合は、コンクリートの表面からどこまで中性化が進んでいるか(中性化深さ)を調べます。
塩害が疑われるなら、コンクリート中の塩化物イオン量などを調べます。
ASRが疑われる場合には、ひび割れの状況や使用された骨材などを確認し、必要な調査を行います。
実務では、
変状を確認する
↓
考えられる劣化要因を推定する
↓
環境や施工・補修履歴などを確認する
↓
必要な調査・試験を行う
↓
劣化原因や劣化状況を判断する
という流れで考えると分かりやすいでしょう。
見た目は劣化原因を考えるための重要な手がかりです。
ただし、「このひび割れだから必ずASR」「錆汁があるから必ず塩害」と決めつけず、外観から原因を推定し、必要な調査で確認していくことが重要です。
初期欠陥と劣化は何が違う?
コンクリートには、ジャンカやコールドジョイント、初期ひび割れなどの初期欠陥もあります。
今回説明した劣化とは少し違います。
初期欠陥は、材料や施工、打込み、締固め、養生などが関係し、施工中から施工後の比較的早い時期に発生するものです。
一方、中性化や塩害、凍害などは、構造物が使用される中で周囲の環境などの影響を受けて進行していきます。
ただし、初期欠陥とその後の劣化は無関係ではありません。
例えば、施工時にできたひび割れなどが水分や塩化物イオンなどの侵入経路となり、その後の劣化に影響することがあります。
ジャンカや初期ひび割れ、表面気泡、コールドジョイントなどの違いはこちらの記事で詳しく解説しています。
👉 コンクリートの初期欠陥とは?ジャンカ・ひび割れ・表面気泡の原因を初心者向けに解説
まとめ|何が作用して、どこが傷むかで考える
コンクリートの劣化は、名前だけを覚えようとすると分かりにくい分野です。
まずは、
何が作用する?
→ 内部で何が起こる?
→ どんな変状が出る?
で整理してみましょう。
中性化
二酸化炭素
→ アルカリ性が低下
→ 鉄筋を守る環境が失われる
→ 鉄筋腐食・ひび割れ・剥離
塩害
塩化物イオン
→ 不動態皮膜が破壊される
→ 鉄筋腐食
→ 錆汁・ひび割れ・剥離
凍害
コンクリート内部の水分
→ 凍結・膨張
→ 内部に圧力
→ 凍結・融解の繰り返し
→ 表面の剥がれ・ひび割れ
ASR
反応性骨材+アルカリ+水分
→ ASRゲルが生成
→ 吸水・膨張
→ コンクリートに圧力
→ ひび割れ
化学的侵食
酸・硫酸塩など
→ コンクリート中の成分と反応
→ コンクリートが変質・損傷
→ 表面の侵食・断面欠損
この関係が分かれば、代表的なコンクリートの劣化について基本的な違いを整理できます。
実際の構造物では、一つの劣化だけが発生するとは限りません。
複数の劣化作用が関係する場合もあるため、見た目だけで原因を決めず、構造物が置かれている環境や施工・補修履歴なども確認して判断していきます。
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出典・参考資料
コンクリート工事やアルカリシリカ反応抑制対策など、公共工事における基本的な施工・品質管理事項を確認しています。
国立研究開発法人 土木研究所|コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル
中性化、塩害、ASRなど、コンクリート構造物の劣化と補修に関する考え方を確認しています。
凍結融解によるコンクリートの損傷や、凍害の特徴について確認しています。
中性化、塩害、凍結融解、アルカリシリカ反応など、コンクリートの耐久性に関する基礎事項を確認しています。



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